勤務表を見た瞬間、
「あ、明日あの先輩と一緒だ。よかった」
それだけで、少しホッとした経験はありませんか?
分からないことを聞いても、嫌な顔をされない。
報告がうまくまとまらなくても、最後まで話を聞いてくれる。
ミスをしたときも、
「なんでこんなことしたの?」
と責めるのではなく、
「次はどうしたら防げると思う?」
と一緒に考えてくれる。
そんな先輩と一緒の日は、不思議といつもより動ける。
質問できる。
報告できる。
患者さんのところにも積極的に行ける。
そして勤務が終わったとき、
「今日、少しできるようになったかも」
と思える。
逆に、怖い先輩と一緒の日はどうでしょう。
怒られないことばかり考えて、分からないのに質問できない。
報告するタイミングを何度も迷う。
患者さんのことを考えたいのに、いつの間にか先輩の顔色ばかり気にしている。
同じ新人なのに、一緒に働く先輩が違うだけで、こんなにも仕事のしやすさが変わります。
では、新人看護師が本当に
「この人と一緒に働きたい」
と思う先輩とは、どんな先輩なのでしょうか。
僕は、ただ優しいだけの先輩ではないと思っています。
何でも代わりにやってくれる先輩でもありません。
必要なときには厳しいことも言う。
できていないことは、できていないと伝える。
でも、その根底には
「この新人を成長させたい」
「一緒に患者さんを守りたい」
という気持ちがある。
長く看護師として働き、たくさんの新人看護師と関わってきた僕が思うのは、
新人が本当に求めているのは、
「怒られない先輩」ではなく、
「安心して質問し、失敗し、成長できる先輩」
なのだと思います。
今回は、
「明日、あの先輩と一緒だ。よかった」
新人からそう思ってもらえる先輩看護師について考えてみたいと思います。
目次
- ①「分からない」と言える空気を作ってくれる
- ② ミスを「責める材料」ではなく「成長する材料」にしてくれる
- ③「できていないこと」だけでなく「できるようになったこと」を見てくれる
- ④ 忙しくても態度を変えない
- ⑤ 答えを全部教えるのではなく、一緒に考えてくれる
- ⑥ 先輩自身も「分からない」と言える
- ⑦ 困ったとき、最後は味方でいてくれる
- 新人を成長させるのは「怖さ」ではない
- 「あの先輩と一緒だ。よかった」と思ってもらえる人へ
①「分からない」と言える空気を作ってくれる
新人看護師にとって、先輩への質問は想像以上に勇気が必要です。
「こんなこと聞いたら怒られるかな」
「前にも教えてもらった気がする」
「忙しそうだから、今はやめておこう」
そんなことを考えているうちに、質問するタイミングを失ってしまいます。
でも、新人が分からないことを聞けない状況は、決していいことではありません。
なぜなら、看護師の仕事では「分からないまま進めること」が患者さんの安全に影響する可能性があるからです。
だからこそ、一緒に働きたいと思われる先輩は、
「そんなことも分からないの?」
ではなく、
「どこまで分かってる?」
と聞いてくれます。
そして、新人が理解できているところと、理解できていないところを一緒に整理してくれる。
もちろん、何度も同じことを聞かれれば、
「前にも説明したよね」
と思うことはあるでしょう。
それでも、質問したこと自体を否定しない。
「分からないときは聞いても大丈夫」
そう思える空気を作ってくれる先輩がいるだけで、新人は格段に動きやすくなります。
質問しやすい環境を作ることは、単に新人に優しくすることではありません。
回りまわって、患者さんの安全を守ることにもつながっていきます。
② ミスを「責める材料」ではなく「成長する材料」にしてくれる
新人にミスはつきものです。
もちろん、
「新人だから仕方ないよ」
で、すべてを済ませていいわけではありません。
患者さんの命を預かる以上、なぜそのミスが起きたのかを振り返り、同じことを繰り返さないようにする必要があります。
ただ、そのときの伝え方はとても重要です。
「なんでこんなことしたの?」
「普通は分かるでしょ?」
「前にも言ったよね?」
そう言われ続けると、新人の頭の中は、
「次はどうすればいい?」
ではなく、
「また怒られてしまった」
でいっぱいになります。
そして次第に、
ミスを報告することまで怖くなってしまう。
一方で、一緒に働きたいと思われる先輩は、
「どうしてこうなったと思う?」
「どこで確認できたかな?」
「次に同じ状況になったらどうする?」
と、次につながる振り返りをしてくれます。
注意しないわけではなく
必要なことはきちんと伝えてくれる。
でも、ミスへの注意と人格否定を一緒にしない。
「ミスをした=ダメな看護師」ではなく、
新人が失敗したときこそ
その失敗を次の患者さんを守る力に変えられるように関わる。
そんな先輩となら新人は失敗を恐れ、隠すのではなく、
失敗から学べるようになります。
③「できていないこと」だけでなく「できるようになったこと」を見てくれる
新人時代は、毎日のようにできないことと向き合います。
採血がうまくできない。
点滴管理に時間がかかる。
報告がまとまらない。
優先順位がつけられない。
急変すると頭が真っ白になる。
できないことを挙げれば、いくらでも出てきます。
だからこそ、新人は自分の成長に気づきにくい。
昨日よりできることが増えていても、
「自分は全然成長していない」
と思ってしまいがちです。
そんなとき、
「今日の報告、前より分かりやすかったよ」
「患者さんの変化に自分から気づけたね」
「最近、優先順位考えて動けるようになってきたね」
先輩からそんな一言をもらうだけで、
「あ、自分も少しずつ成長してるんだ」
と思えます。
新人にとって、先輩から認めてもらえることは大きな自信になります。
大げさに褒める必要はありません。
ただ、できなかったことができるようになった瞬間を見逃さない。
できないところを指摘するだけでなく、できるようになったところも言葉にする。
できたことを自覚できる機会が増えれば
新人の自己肯定感が高まり、
「できることをもっと増やしていきたい」
「次も頑張ろう!!」
とモチベーションをより高く保つことができます。
そして
そうやって育った新人が先輩になり、
今度は新人を指導する立場になった時に、
同じようにできているところをちゃんと褒めることのできる先輩看護師へ
成長していくことでしょう。
④ 忙しくても態度を変えない
新人にとって意外と怖いのが、
「先輩の機嫌」
です。
朝は普通だったのに、忙しくなると急に口調が強くなる。
ナースコールが重なるとイライラしている。
急変が入ると、話しかけることすら怖くなる。
新人はそういう変化を
患者のバイタルサインの変化と同じか
それ以上によく見ています。
すると、
「今、質問したら怒られるかな」
「報告したいけど、もう少し後にしようかな」
と、必要な相談までためらうようになります。
もちろん、忙しいときに余裕がなくなるのは誰にでもあります。
先輩だって人間です。
いつでも笑顔でいれるわけではありません。
でも、
「今ちょっと手が離せないから、5分後でもいい?」
「その報告は急ぎ?急ぎなら今聞くよ」
そう伝えるだけでも、新人の受け取り方は大きく変わります。
「質問するな」
ではなく、
「今は聞けないけど、あとで必ず聞く」
という姿勢を示す。
感情ではなく、状況を言葉にして伝えられる先輩は、
新人にとってとても安心できる存在です。
⑤ 答えを全部教えるのではなく、一緒に考えてくれる
「優しい先輩=何でも教えてくれる先輩」
とは限りません。
新人が困るたびに答えを教えていたら、その場では助かっても、自分で考える力はなかなか身につきません。
だから、
「あなたはどう思う?」
と新人に考えてもらうことも大切です。
ただし、この言葉には注意が必要です。
新人が勇気を出して質問したのに、
「自分で考えて」
だけで終わらせてしまえば、それは指導ではなく突き放しになってしまいます。
大切なのは、
「どこまで考えた?」
「患者さんの今の状態から何が考えられる?」
「じゃあ、まず何を確認したらいいと思う?」
と、考えるための道筋を一緒に作ることです。
答えを奪わない。
でも、一人にもさせない。
新人が自分で答えにたどり着けるように、少しだけ横から支える。
たどり着けそうになければ、すぐに手を引いて教えるのではなく
自分で答えを導き出せるようにサポートする。
そんな先輩と働いていると、新人は少しずつ
「自分で考えて動く」
という看護師に必要な力を身につけていきます。
そして導き出した答えが間違っていたとしても、
それを責めるのではなく、
正しい道へ導き、
正しい答えが出せたなら、それをちゃんと褒めてくれる。
その安心感が新人の成長を加速させていくのです。
⑥ 先輩自身も「分からない」と言える
経験年数が増えると、
「先輩なんだから知っていないといけない」
と思ってしまうことがあります。
でも、看護の世界は本当に広いです。
疾患、薬剤、検査、手術、医療機器。
すべてを完璧に覚えている看護師なんていません。
だからこそ、
「それ、僕も自信ないから一緒に調べよう」
「念のため確認してみよう」
と言える先輩は、とても信頼できます。
新人はそんな姿を見ながら、
「先輩でも分からないことがあるんだ」
と知ります。
そして同時に、
大切なのは何でも知っていることではなく、
「分からないことを分からないままにしないこと」
なのだと学びます。
これは新人にとって、とても大切な学びです。
分からないことを隠す看護師ではなく、
分からなければ調べる。
自信がなければ確認する。
必要なら誰かに相談する。
先輩自身がその姿勢を見せることが、新人にとって一番分かりやすい教育に
なることもあります。
⑦ 困ったとき、最後は味方でいてくれる
新人が新しいことに挑戦するとき、
一番怖いのは、
「何かあったらどうしよう」
という不安です。
初めての処置。
初めての重症患者。
初めての急変。
自分の判断が患者さんの状態を左右するかもしれない。
そのプレッシャーは、新人にとってとても大きなものです。
そんなとき、
「何かあったら一緒に対応するから」
「分からなかったらすぐ呼んで」
そう言ってくれる先輩がいるだけで、新人は一歩踏み出せます。
もちろん、何でも先輩が尻拭いするという意味ではありません。
新人にも、自分の行動には責任を持ってもらう必要があります。
でも、
「失敗したら見捨てられる」
と思っている環境と、
「何かあっても一緒に考えてくれる人がいる」
と思える環境では、挑戦する勇気がまったく違います。
僕が新人の時、
血管がかなり細い患者の点滴ルートの穿刺がありました。
僕は穿刺をする前から、
「どうせ失敗するなら自分より上手い先輩がやった方がいい」
と自分がもうすでに血管を漏らすイメージしか
持っていませんでした。
そんな僕を見て、当時の先輩が言ってくれたひと言。
『2回までは自分でやってみな。』
『それで入らなかったら私が入れてあげるよ』
と言い、血管選びから刺入の角度まで
一緒に考えてくれました。
そして結果的に僕は血管を漏らすことなく
点滴ルートの確保ができました。
先輩の言葉やその後のサポートによって
安心感を持って穿刺ができたことが
成功の要因だったと思います。
新人が成長するためには、挑戦が必要です。
そして挑戦するためには、
「困ったときには助けてもらえる」
という安心感が必要なのです。
新人を成長させるのは「怖さ」ではない
僕自身、新人時代を振り返ると、
怖い先輩から教えてもらったこともたくさんあります。
厳しく言われたからこそ、今でも覚えていることもあります。
だから、
「新人には絶対に厳しくしてはいけない」
とは思いません。
患者さんの安全に関わることなら、厳しく伝えなければならない場面もあります。
ただ、
「怖くすれば新人は成長する」
という考え方は違うと思っています。
怒られないために動く。
怒られないために報告する。
怒られないために勉強する。
それでは、いつの間にか看護の中心が
「患者さん」ではなく「先輩」
になってしまいます。
本来、新人が考えるべきなのは、
「先輩に怒られないためにはどうするか」
ではありません。
「患者さんにとって何が必要なのか」
です。
そのためには、分からないことを質問できること。
違和感を感じたら報告できること。
ミスをしたら隠さず相談できること。
そして失敗しても、そこからもう一度挑戦できることです。
新人を成長させるのは、
「怖さ」ではなく、
「安心して挑戦できる環境」
なのだと思います。
「あの先輩と一緒だ。よかった」と思ってもらえる人へ
新人時代、
「あの先輩と一緒の日は嫌だな」
と思っていた人もいると思います。
でも数年経てば、今度は自分が
「先輩」
と呼ばれる側になります。
そのとき新人から、
「あの先輩と一緒か……」
と思われるのか。
それとも、
「あの先輩と一緒だ。よかった」
と思ってもらえるのか。
その違いは、看護技術が誰より優れていることでも、何でも知っていることでもありません。
分からないときに質問できる。
失敗したときに相談できる。
困ったときに、
「助けてください」
と言える。
そんな安心感を後輩に与えられるかどうかだと思います。
僕自身も、完璧な先輩ではありません。
忙しくて余裕がなくなることもあります。
「あの言い方はよくなかったな」
と勤務が終わってから反省することもあります。
それでも、
自分が新人だった頃に、
「あの先輩がいてくれたらよかった」
と思ったように、
今の後輩たちから「いてほしい先輩」と思ってもらえるように
意識して関わっています。
そしていつか、
自分と一緒に働いた新人や後輩たちが先輩になったときに、
今度はその子たちが、新しく入ってきた後輩に
安心感を与えられる存在になってくれることを願っています。
そうやって、
「分からないと言っても大丈夫」
「失敗しても、次につなげればいい」
「困ったときは誰かに頼っていい」
と思える職場が少しずつ広がっていけばいいなと思います。
新人看護師は、
決して「何もできない看護師」ではありません。
できることを増やしていっている段階なだけであり、
いつか必ず自分たちの背中を任せられる存在になってくれます。
だからこそ、
できないことだけを見るのではなく、
できるようになる過程を一緒に見守れる先輩でありたい。
勤務表を見た新人が、
「あ、明日あの先輩と一緒だ」
そして、
「よかった」
と少し安心できる。
そんな先輩が一人でも増えれば、
「明日、仕事に行くのが怖い」
そう思う新人看護師も、少しずつ減っていくのではないでしょうか。
あなたは、新人から
「明日、あの先輩と一緒だ。よかった」
と思ってもらえる先輩になれていますか?

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